水戸まで行った甲斐がありました。13日(日)に「やまとしうるわし 武石堯展」を見てきたのですが、新年からの後期展では、會津八一の和歌に着想を得て奈良をテーマに描かれた新作8点と茨城新聞連載「灯台めぐりペダルの旅」シリーズのイギリス編10点及びフランス編28点のスケッチ原画が展示されていました。
画家の武石先生とは先生の創作テーマのひとつである灯台つながりで以前からご縁があり、2014年に犬吠埼ブラントン会が主催した犬吠埼灯台140周年記念事業で、「灯台めぐりペダルの旅-犬吠から世界へ描きながらの一人旅」という講演をしていただいたことがありました。今回も灯台専科の私は、最近描かれたフランスの灯台のスケッチ原画を中心に見ておりましたが、なかでも壮麗なコードゥアン灯台(H28年作、1620×1303)とモノトーンの冷厳な世界を醸している岩上の灯台ファストネット灯台(H27年作、2290×1660)の大作は、旧作ではありますがフランス・アイルランド(イギリス系)両国の灯台づくりの特色を映して心に迫るものがありました。
武石先生が灯台めぐりを始めたきっかけは、60歳で高校の教師を退職されてから、自由な時間ができたので自転車でどこかに行ってみたい、灯台のある岬をなぞっていけばありのままの日本を見ることができるのではないかと考えたからだそうな。そのうち日本の灯台が幕末・明治期に西欧諸国の要請や技術でできた経緯を知ってますます灯台が好きになり、やがて日本の灯台を一通り回り終え、ついに灯台のルーツを遡ってイギリス(イングランド・アイルランド・スコットランド・マン島)やフランスに遠征して灯台めぐりをするようになったということです。現在も毎年外国のどこかで自転車のペダルを漕ぎながら灯台をスケッチして回っているというのですから、すごいというほか在りません。
同じ会場の一角ではDVD『やまとしうるわし 画家 武石 堯』が上映されていました。武石 堯(たけいし とおる)の絵心や人となり、真面目で時にユーモラスな制作活動が映像に滲み出ていてとてもいい内容でした。とくに、奈良・法輪寺妙見堂の格天井を描いた時のことを回想するシーンでは、現地取材とインタビューを通して先生のもの静かな高揚感がほんのりと伝わってきます。「描き終わって、彩色のほとんど落ちた享保時代の元のままの天井絵と外側3列をぐるっと囲む派手な彩色の自分の絵とのコントラストに、当初お寺側もビックリされたようでしたが、若い人が一言『妙見堂に新しい空ができたようだ』とほめてくれたことが、私には『上手だなあと思いながらうれしかった。落慶法要の時は、実に晴れがましい想いで、こんなことはもう二度とないだろうと思いました。』とボソリと語っています。
先生は確か昭和12年生まれ、御年81歳の先生が會津八一の和歌をモチーフにして描かれたのは偶然でしょうか?
※「やまとしうるわし 武石 堯(たけいし・とおる)展」についての情報
会場:公益社団法人 常陽藝文センター 水戸市三の丸1-5-18 常陽郷土会館 0209(231)6611代表
第1会場(會津八一と奈良):藝文ギャラリー(入場無料)平成31年2月3日(日)まで
第2会場(英仏の灯台めぐり):藝文プラザ(入場無料)平成31年1月31日(水)まで
*DVD『やまとしうるわし 画家 武石 堯』、2018年制作、24分、(1080円)