さよなら水銀槽、こんにちは特殊車輪、何のこっちゃ?

さよなら水銀槽、こんにちは特殊車輪、何のこっちゃ?

日没から夜明けまでの間、犬吠埼に行くと15秒毎に1回白色の閃光を発している灯台を見ることができます。
実際には光源がフラッシングしているのではなく、4面体のフレネル・レンズを通して光の帯が1分間に4回自分の目の前に廻ってくるという仕掛けになっています。

 海上36km先まで届くこの強い光は、灯台の上部(灯室)に設置されている巨大な灯器(フレネル・レンズと光源のメタルハライドランプ)で集光され、発射されるのですが、重さ3トンともいわれる大きくて重たい第一等4面閃光レンズ(国産)を載せた台座を、水銀で満たしたU字形断面を持つリング状の盥(タライ)の上に浮かべ、小さなモーターの力だけで回転させています。
 その水銀槽式回転装置が令和元年(2019)12月に特殊車輪型回転装置(特殊なベアリング式)に改装されました。

 水銀槽式の歴史は古く、明治30年(1897)にフランスから輸入され、翌年には国産品が完成。犬吠埼灯台でも、ちょうど今から90年前の昭和5年(1930)に轉轆式から水銀槽式に改良されています。

 水銀槽式は比重の重い水銀の特性を利用し、わずかな力で重量物を回転させることができるという優れものなのですが、その反面水銀の取扱いにやや難しいところがありました。そこで今回、数個の特殊ベアリングを配置した円盤上にレンズ台を載せ、その外周に設けられた大歯車を小型モーターで回転させる特殊車輪式に換装する工事が実施されたというわけ。

 ちなみに、犬吠埼灯台の初代レンズは、フランスのソーター・レモニエ社製第一等8面閃光レンズで、現在旧霧笛舎内に展示されています。初期の回転装置は轉轆(てんろく)式と呼ばれる車輪(コロ)の上にレンズ台座を載せた方式でした。以後、轉轆式(車輪式) → 水銀槽式 → 特殊車輪式と変遷してきたわけですが、摩耗やガタつき等回転精度の悪かった初期の車輪式に比べ新式の特殊車輪型は、機械工学の技術的進歩に支えられ開発された特殊な形状のベアリングを採用することによって、水銀槽式の欠点をカバー、さらにメンテナンスや安全性の面でもメリットがあるとされています。
 
 なお犬吠埼灯台における回転装置の変遷は概ね以下のようであったと思われます。
 ここで興味深いのは、回転の動力源です。鳩時計のメカニズム(レンズ回転装置の場合は錘の下降運動を水平の回転運動に変換)を想像していただければわかりやすいと思いますが、轉轆式の頃からマシンケースに格納されたClockworkの動力には灯塔上部の灯室から地面まで下降する分銅(鉛板)が用いられ、必要に応じて分銅の数を増減し、回転速度を調整していました。つまり、灯台職員さんは当直の日、点灯している間はレンズの回転を止めないように一定時間毎に分銅の位置を確認し、灯室まで人力で巻き戻すという大変な作業があったわけです。

① 明治 7年(1874)~ :轉轆式  + Clockwork + 分銅
② 昭和 5年(1930)~ :水銀槽式 + Clockwork + 分銅
③ 昭和26年(1951)~ :水銀槽式 + Clockwork + 自動巻上装置(モーター駆動)
④ 昭和37年(1982)~ :水銀槽式 + (直結) + モーター(サイクロ減速機)
⑤ 令和 元年(2019)~ :特殊車輪型+ (直結) + モーター

※Clockworkとは分銅の下降運動を水平の回転運動に変換する時計仕掛けの伝導装置のことをいいます。

※直結とは、レンズを載せた台座の外周がグルリとギア歯になっていて、それを直接小型モーターで回す仕掛けをいいます。

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