鶏鳴と犬吠

鶏鳴と犬吠

 画題は、鶏鳴雲中 犬吠天上。「金沢最後の文人墨客」といわれた小松砂丘(明治29年-昭和50年)の作品だ。 新しい年の夜明けを知らせる鶏鳴とわが犬吠埼灯台にピッタリの犬吠と二つ揃っているのが気に入って大晦日にヤフオクで入手した。
 制作日が戊戌1月(1958)とあるから、ちょうど60年前の作品ということになる。「鶏鳴雲中 犬吠天上」は作者の造語らしいが、「鶏は雲中に鳴き、犬は天上に吠える」とでも読むのだろうか。
 この絵、犬と鶏が乗っているのは雲の上とみるのが順当であろうが、逆巻く波の上と見立てると、犬と鶏がサーフィンしているようにも感じられて微笑ましい。
 想像するに、砂丘先生はお酒が大好き、金沢の繁華街香林坊あたりにも馴染みのお店がたくさんあったようなので、新年を迎えた歓びに満ちて一気に描き上げ、この画を肴に愉悦の一時を過ごされたのではなかろうか。
 一方、ペットなど飼ったこともない犬吠ひろしだが、不思議なことに犬と鶏には縁がある。その昔、JCで「いま鶏鳴の時、出会いの妙を求めて」(1988年千葉ブロック協議会)と唱えたり、先述の「犬吠埼巌上の犬の像」(1985年 計画倒れ)なども打ち上げたことがあったなあ。
 そういえば、中国では犬と鶏はカップルで登場することも多い。「鶏鳴狗吠相聞」、「鶏犬相聞」、「鶏鳴狗盗」等々。これら故事の説明をすると少々複雑になるのでこの辺で止めておこう。
 犬吠ひろし的には、日本で一番初日の出を早く見ることができる犬吠埼にちなんだ画を見つけられたことを素直に喜ぶことにしたい。

※ 小松砂丘は画業の他、俳人でもあった。香林坊には「明暗を香林坊の柳かな」という句碑があるという。
※ 作家五木寛之は、小松砂丘を評して「ひとことでいえば市井の芸術家だが」としながらも「ぼくが大好きな画人」と随筆に書いている。
※ JC(Junior Chamber) は青年会議所の略。

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