御前埼灯台よ、おまえもか!

御前埼灯台よ、おまえもか!

御前埼灯台(静岡県)も二重円筒構造のレンガ造灯台だった。

 平成28年10月から本年11月末までの期間実施された「御前埼灯台改良改装工事」で、同灯台灯塔が二重円筒構造であることが判明した。

 私が御前埼灯台の補修工事が始まったことを耳にしたのは昨年11月半ば、旧知の「御前埼灯台を守る会」会長のSさんにメールを送り、現在工事中なら、是非灯塔の壁が犬吠と同じ二重円筒構造かどうか、灯塔やパラペットに戦災の傷跡(弾痕)などは残っていないか確認した方がよい、可能ならば実物のレンガ壁をのぞける小窓のようなものを設けてもらえたら最高などと、チェックポイントを図解して送ったところ、灯台ファンならば喉から手が出るような貴重な工事写真がS氏からワンサカ届いたというわけ。

 実は、これまで御前埼灯台の灯塔は一重壁構造であるとされていた。どうやらこの件は未だ世間では知られていないようで、早速、事実確認のため建築史がご専門の東工大名誉教授F先生と海上保安庁随一の灯台史研究家F氏(本件で工事を担当した三管の技術者にも確認してくださった)に照会したところ、お二人ともこれらの写真で見る限り御前埼灯台は二重円筒構造に間違いないという判定だった。
 これでブラントンのレンガ造灯台4基のうち、灯塔の形状が異なる菅島灯台(三重県、明治6年7月)を除き、初点灯年順に御前埼(静岡県、明治7年5月)、犬吠埼(千葉県、明治7年11月)、尻屋崎(青森県、明治9年10月)の3基が二重円筒構造ということになったわけだ。
 
 今回、わが犬吠埼灯台より先に二重円筒のレンガ造灯台が存在したことが明らかになって、地元住民の一人としては正直なところチョッピリ残念な気もするが、もともと御前埼とは誕生年や服装も同じなかよし姉妹灯台だから、いわば長女の慶事と日本の灯台史に新事実が加わったことを素直に喜ぶことにしよう。
 あわせて、灯塔の内壁に新しく設置された小窓を通して、レンガの長手方向だけを並べた層と小口方向だけを並べた層を交互に積む「イギリス積」のレンガ壁をシッカと見ることができるようになったことは見学者の視点に立った工事関係者のスマートな対応だと賞賛したい。なにしろ、ここ数年というもの、私は、出雲日御碕灯台を参考にして犬吠埼でも手前と奥の二重の壁(円筒)構造が一目でわかる仕掛けを実現できないものかと夜ごとうなされていたくらいだったのだから。
 ただ、ブラントンがどういう目的で日本のレンガ造灯台に二重円筒構造を採用したかは現時点で必ずしも明確ではない。耐風性や耐震性、耐湿性などを考慮したとする諸説があり、残る菅島灯台が二重円筒構造か否かを含め、これからの解明が待たれるところ。
 私の見立てでは、この課題を真正面から捌けるのは、日本広といえどもそう多くはいない。
 となれば、灯台研究生さん、あなた出番です!
 

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