10月末、市内のショッピングセンターのシネコンで映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』を見た。映画が公開される大分前から、人の出入りの多い銚子市役所正面玄関には長大な垂れ幕が掛けられ、銚子のまちをあげて歓迎ムードで盛り上がっていた。
それもそのはず、実写版のロケ地がとなり町飯岡(現旭市)をメインにしていたのに対して、今回のアニメ作品は圧倒的に銚子らしきシーンが多いからだ。典道がなずなを自転車の後ろに乗せて猛スピードで降り下った坂道は外川(とかわ)のあそこだよな? 銚子電鉄の電車も鏡のような海面を滑るように走ってファンタジックに登場する。風力発電のプロペラだって洋上や屏風ヶ浦に林立している銚子のイメージだよね。灯台ファンにとって最も重要な灯台のモデルも形や大きさからみてまぎれもなく犬吠埼灯台に違いない。かまぼこ形の建物とエアサイレンの野太い霧笛は銚子の犬吠埼しかなかったもんね。
ネットでは8回、9回見たなどというファンもいるようなので、たった1回しか見ていない私はあまり大きなことは言えない。それでも実際なずなはかわいいし、なずなが歌う「瑠璃色の地球」を聞いたら年甲斐もなくキュンときた。元々好きだと思ったことにはトコトンのめり込む質(タチ)だが、ここは自制のしどころだ。家庭の平和を第一に考え、未知の世界に足を踏み入れることはやめて、犬吠ひろし改め灯台じいは灯台のことだけ語ることにした。
思いっきりOpticalなこの映画の世界、とにかく、灯台づくめ、犬吠埼灯台三昧なのである。灯台のレンズは実物の4面体(ついでに初代レンズは8面体)ではなくハマグリ型のようだが、2連装のメタルハライドランプやBull’s Eyeと呼ばれている中央部のフレネルレンズ、鎧戸のように合金製の枠にはめ込まれたプリズムとレンズの空間、レンズを通して、あるいはレンズの中にみた景色や人物の心の揺らぎもあったような気がする。あの不思議な「もしも玉」さえ球形の灯台レンズ風なのだ。「灯台女子」の草分けFさんがこの映画を見たら、きっと犬吠埼灯台に駆けつけ、「レンズは灯台の瞳、おおフレネル様」と宣わり、灯台に飛びかかってきつくハグしたことだろう。
特に面白かったのは、下から上まで灯台をグルッと囲んで組み上げられた足場だ。過去に2度大規模工事の際に見たことがあるが、実際は危険防止のために骨組みはシートで覆われていた。しかし、よく思いついたものだと思う。二人すれ違うのがやっとな灯塔内の狭いらせん階段を昇ったり、円形で狭い回廊のスペースでは表現上の自由度が減ぜられる。灯台の足場から花火を見る。なにより思いっきり開放的なのがいい。
実は今回、映画製作にほんの少し犬吠埼ブラントン会も協力している。霧笛廃止直前に録音・CD化した音を制作者から使用したいという照会があり、もちろん二つ返事で応じた。エンド・ロールに協力団体として掲載してくれるという。それならばとお願いしてサウンド・エンジニアW氏の名も加えていただいた。
なので、どんなふうに映画で使用されたのか確かめることも映画を見る大きな楽しみだった。霧笛舎のイラストと霧笛が鳴った。やっぱり、あの牛の声、懐かしいなぁ。
思えば、チラシをネット・オークションで落札し、DAOKOの主題歌のCDを購入、円形うちわや公式ガイドブックも入手した。世間には「か・け・お・ち・サンドウイッチ」や「島田家のカレーライス」、もあるそうだから楽しみは尽きない。
広瀬すず(なずな)の歌う「瑠璃色の地球」が気に入って、円熟した松田聖子のオリジナル曲やHAYLEY WESTENRAの英語バージョンまでついつい追いかけちゃった。
夜明けの来ない朝はないさ
あなたがポツリ言う
灯台の立つ岬で
暗い海を見ていた
・・・・・・・・・
灯台じいは、これから先何回この映画を見ることになるのだろう。
※映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』:原作 岩井俊二 ✕ 脚本:大根仁 ✕ 総監督:新房昭之、2017年8月公開。大根さんは銚子にご縁のある方だとのこと。
※画像は、©2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会からご提供いただきました。
※犬吠埼霧信号所の霧笛は2008年(平成20年)3月末で廃止され、現在、霧笛舎は国の登録有形文化財になっています。