キャンベル岬灯台の回転機械を訪ねて

キャンベル岬灯台の回転機械を訪ねて

2016年2月、ローカルなネット・ニュースで一人のニュージーランド女性と傍らに映画The Light Between Oceansで使用されたというキャンベル岬灯台の回転機械(Clock Work)が並んだ写真を見つけた。 回転機械とは、灯塔上部の灯室に据え付けられ、鳩時計とほぼ同じ機構で、巻き上げられたオモリが灯塔を下降する力を回転力に変換し、それによって光源やレンズなどからなる灯器を水平方向に回転させる機械のことであるが、私には一目で写真の機械が犬吠埼灯台建設当初のスコットランド製回転機械と同型とわかった。その上、キャンベル岬の初代灯台を手がけた技師も幕末・明治初期に日本政府の灯台顧問として洋式灯台の整備に尽力したスティブンソン一族のJ.バルフォアであったから、この機械はスティブンソン仕様のミルン社かダブ社製のどちらかに違いないと推理した。その後は見たいの一心でまっしぐら、回転機械が保管されている郷土資料館フラックスボーン・ミュージアムの管理人で、灯台の敷地を含む広大な土地を所有する牧場主夫人のサリー・ピ-ター氏をなんとか探し当て、目指すニュージーランドのスモールタウン・ウォードへ向かって秒読みに入ったことは言うまでもない。

6月15日、私は、渡航前に偶然知り合った日本人の翻訳家K女史ご一家と車で南島北西部の都市ネルソンからブレナム経由でウォードへ向かった。件の郷土資料館は、ネットで下見したとおり国道A-1のロード・サイドにあった。同じ土地の一角にあるレストランでサリー夫人やお仲間の牧場主ジャック・テーラー氏等と全員でランチをとり、自己紹介や灯台に関する資料やプレゼントの交換をする。こちらからは『犬吠埼灯台関係内外資料集』や英文解説付きの『明治期の灯台』その他犬吠埼灯台グッズ等を持参した。サリー夫人宛てのメールに6月15日は私の誕生日だと書いたことがあったからか、ピーター夫妻からCape Campbell灯台のラベルの付いた白ワインとジャック氏からマオリ族の木彫りの飾り物をプレゼントされ、もちろんこちらは大感激。

食後、まず先に灯台を見学することになり、サリー夫人が先導、閑散とした道路を灯台目指して約20km走ったあたりで公道が終わりピーター家の牧場内に入った。牧場内の路上では、時々車を降りて羊が外に出ないようにゲートを開け閉めしながら前進した。左右に開ける平地や丘には羊の群れがゆっくり移動し、灯台近づくに連れ砂浜にアザラシらしき海獣が寝転んでいるのも見える。小高い丘の上に建つ黒と白のストライブに塗り分けられた灯台は犬吠埼灯台とほぼ同じ高さだった。そこから周囲を一望すると、自然以外には何もなかったが、薄ら鉛色に覆われた空と、雲の切れ目から差す日光に照らされた明るいコバルトブルーの海とのコントラストには見とれてしまった。海は一続きだと思うと、9000キロ離れた犬吠埼灯台が妙に恋しくなった。

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