◯航路標識【こうろひょうしき】(Aids to navigation)

船舶が安全で効率的な運航をするための海の道しるべ。主なものに光波標識(灯台・灯浮標・灯標)、電波標識(DGPS、ロランC)音波標識(霧信号所)等があります。日本では海上保安庁が管轄、犬吠埼灯台(以下犬吠埼)は第三管区海上保安本部の銚子海上保安部が管理しています。

◯和式灯台【わしきとうだい】(Japanese lighthouse)

幕末・明治初年に洋式灯台が整備される以前、日本では、河川や港口の浅瀬に澪つくし(昼間標識)を建てたり、常夜灯に火を点したり、灯明堂と呼ばれた小さな建物の中で油や篝火焚いて、船舶に位置や危険を知らせていましたが、いずれも光力が弱く、外国船からは日本の海は“ダークシー”であると怖がられていました。

◯洋式灯台【ようしきとうだい】(Western lighthouse)

17~18世紀頃、レンズや反射鏡とランプを組み合わせ、強い光を遠くまで届ける西洋で開発されたシステム。日本では慶応2年(1866)幕府が西欧4カ国と結んだ江戸条約の中で灯台を整備することを約束したことから始まり、フランスやイギリスの技術指導により急速に整備されました。

◯灯塔【とうとう】(Tower)

灯器等の上部構造を支える構造物。多角形や円筒状の形状が多く、海水面からの高さや目標とする光達距離を考慮し、灯塔の高さが決められました。洋式灯台の整備期には組積造、レンガ造、木造、鉄造等があり、材料調達や設置場所によって選択されました。現在は鉄筋コンクリート造が主流です。大型灯台の塗色は白が多いですが、雪の多い地方などでは視認性を高めるため黒や赤のストライプのものもあります。

◯吏員退息所【りいんたいそくしょ】(Light keeper’s house)

灯台保守要員のための官舎。明治初年にはお雇い外国人の首員(教師)用にベランダ・コロニアル式の暖炉付建物が用意されました。戦後もしばらくは職員及びその家族も灯台構内で生活していました。

◯灯ろう【とうろう】(Lantern)

冠蓋(ベンチレター)・屋根(ドーム)・灯ろうガラス部からなる光学系を保護するための灯台上部構造の総称。灯ろうにも等級があり、一等灯ろうは、内径4.14m、ガラス部の高さ3.048mとなっています。

◯灯室【とうしつ】(Lantern room)

灯ろうの別称ないし、灯ろうの屋根の部分を除いた室内空間。

◯胴壁【どうへき】(Parapet)

灯ろうの一部で、灯室のガラス部と床面の間に設けられる壁。外部への出入り口や空気孔が設けられることが多い。石造りや鋳鉄製(犬吠埼)などがあります。

◯灯器【とうき】(Lighting Apparatus)

灯台の光りを生成・集中・発射する光学系器械部です。レンズ及び光源のランプを含む場合と光源のみをいう場合とがあります。

◯フレネルレンズ【ふれねるれんず】(Fresnel lens)

フランスのフレネル(A. J. Fresnel)が発明したレンズで、凸レンズとしての作用を失うことなく、同心円状の領域に分割し厚みを減らし(断面はノコギリ刃状)、少量のガラス素材を用いて軽量に作ることができました。透過による損失も少なく、多くの大型灯台にフレネルレンズとプリズムを組み合わせた灯器が使用されています。

◯等級レンズ【とうきゅうれんず】(Ordered lens)

灯台のレンズは、焦点距離により一等から六等まで格付けされています。レンズの焦点でいえば、一等920mm、二等700mm、三等大500mm、同小375mm、四等250mm、五等187.5mm、六等150mmとなり、レンズの高さでいえば、一等2590mm、二等2117mmとなっています。現在、一等レンズを備えた一等灯台は、犬吠埼, 角島、経ヶ岬、室戸岬、出雲日御碕の5灯台のみです。

◯灯質【とうしつ】(Character)

灯質には光りの色と光り方があります。光りの色は、白(W)・赤(R)・緑(G)・黄(Y)の4色です。光り方には、不動光、単閃光、長閃光、群閃光、単明暗光、群明暗光、等明暗光、不動互光、単閃互光、群閃互光等々があります。これらの組み合わせを見て夜間でもどこの灯台の光りか識別できるのです。ちなみに犬吠埼は、単閃白光、毎15秒に1閃です。

◯光度【こうど】(Luminous intensity)

光の明るさ(強さ)のことで、単位はカンデラ(cd)で表します。現在日本で一番強い光を出す灯台は室戸岬で160万カンデラ、犬吠埼の光度は、日本で2番目の110万カンデラです。

◯明弧【めいこ】(Light sector)及び暗弧【あんこ】(Dark sector)

灯台の光が見える範囲を角度で表し、これを明弧といいます。陸上の方角は遮蔽板で光が届かないようになっており、これを暗弧といいます。

◯光達距離【こうたつきょり】(Visual range)

光の届く距離のことで、単位は海里(1852m)で表します。通常、海面上5mの高さから確認できる距離をいいます。犬吠埼は、19.5海里(約36km)です。

◯光源【こうげん】(Light source)

油脂を燃焼させた火炎を用いた光源からガス灯器へ、さらにアークランプや白熱電球などの電灯へと改善されています。現在使用しているのは、メタルハライドランプ、最近、小型の灯台からLED式も増えてきました。

◯ランプの燃料【らんぷのねんりょう】(Fuels for lump)

日本ではガスや電灯が実用化されるまで、当初中国産の落花生油を用いていましたが、やがて輸入のパラフィン油、そして高純度の石油へと変わっていきました。外国では、アメリカが鯨油、イギリスが鯨油後に菜種油、フランスが菜種油を主に使用していました。

◯回転機械【かいてんきかい】(Revolving machine)

レンズを回転させるための機械装置。鳩時計に類似した仕掛けで、巻き上げた分銅が灯塔を下降する重力をこの機械(Clockwork)装置を経由して水平の回転力に変換しレンズ台を回転させました。戦後もしばらくは原動力を分銅からモーターに変更して使用されていました。

◯水銀槽式回転機械【すいぎんそうしきかいてんきかい】(Mercury bath type rotating apparatus)

大きな盥(たらい)上の容器に水銀を満たし、その上に大きくて重いレンズを浮かべると小さな力でなめらかに回転させることができます。当初は犬吠埼灯台資料館内に展示中の旧沖ノ島灯台一等レンズのようにClockworkを介して水銀槽上のレンズを回転させていましたが、現在では、直づけのモーターで水銀槽上のレンズ台を回す方式になっています。

◯霧信号所【きりしんごうしょ】(Fog horn station)

雪や霧の深い悪天候時に音を出して船に位置を知らせる音波標識(施設)。灯台に併設される場合が多く、音の鳴り方(周期)でどの灯台(霧信号所)かがわかりました。(犬吠埼は視程1.8km以下になったら15秒隔てて5秒吹鳴)音の届く距離が短く、風等の影響を受けやすい欠点がありました。日本では2010年3月に海上保安庁所管の霧信号所はすべて廃止されました。

◯エアサイレン式霧笛【えあさいれんしきむてき】(Air siren)

霧笛の音の発し方のひとつです。明治期以来の圧縮空気でサイレンを鳴らすエアサイレン方式は、装置や収納する建物が大規模で人手もかかったため、電気的に発音板を振動させて鳴らす小型のダイヤフラムホーン方式が主流となっていました。犬吠埼は日本では最後までエアサイレンを使用していました。前者の“ヴィーッ、ヴィーッ”という短い金属音の繰り返しに対し、濃霧の中で余韻を残して響くエアサイレンの重低音は圧巻でした。

◯音達距離【おんたつきょり】(Sound rage)

霧笛の音の到達距離のことをいいます。犬吠埼の音達距離は、公表5海里(約9.3km)でしたが、風向の関係で、実際に陸上のかなり遠くまで聞こえていました。

◯灯台視察船【とうだいしさつせん】(Lighthouse tender)

各地の灯台設備や機能の点検、備品や資材の補給、人員及び給料・生活用品の輸送等に使用された船舶。初代燈明丸(サンライズ号)以降テーボル号、明治丸、新発田丸、羅州丸、宗谷と続き、若草の退役でその使命を終えました。明治初年頃はブラウン船長以下お雇い外国人の乗組員によって運航されていました。

◯灯船【とうせん】(Lightship)

灯器を備えた船で、灯台設置が困難な場所に停泊し灯台の機能を果たしました。西欧と結んだ江戸条約に基づき幕末明治期に横浜の本牧と箱館に各一隻が配備されていました。